『悪の十字架』
その日は、朝早くからしとしとと雨がふり続いていた。
「こんな日は、忙しいわ。お客様用の傘のビニール袋、足もと注意のお知らせ…駐車場のゴミ拾いにも時間がかかるし…。」
そう思いながら、彼女はスイッチを切ってある、重い自動ドアを手であけた。
ここはスーパーマーケット。最近できたショッピングモールにはかなわないが、この地域にはなくてはならないそんざいだ。
お客様は常連さんがほとんどで、気軽(きがる)に立ち話をしていく。
「あら、どこのおばあちゃんだっけ?」
見かけたことのない高齢の女性が、自転車置き場で雨をよけていた。
疲れた顔をして、髪も服も手入れがゆきとどかない感じだ。
そのようすに、彼女はなんなく違和感(いわかん)をおぼえた。
できるだけ、そちらのほうを見ないようにして、淡々(たんたん)と準備を進める。
「いやだわ。声をかけられないうちにさっさとすませよう。」
ふと、ふり返ると、おばあさんは彼女の目の前に立っていた。彼女はぎょっとした。
音もなく、いつ近づいてきたのだろう。
おばあさんは言った。
「この店、あくのじゅうじか?(開くの10時か?)」
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